大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(特わ)350号 判決

本籍

東京都豊島区長崎一丁目三二番地

住居

同都練馬区田柄五丁目一四番一九号

会社役員

栗原清

昭和一九年一〇月二一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡邉清、弁護人田島優子各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金七五〇〇万円に処する。

右罰金を完納できないときは、金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都豊島区長崎一丁目一番一七号ほか一八か所において、「さかえ」の名称で麻雀店を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するとともに、従業員らが右各店の経営者であるかのように装って、同人らの名義で確定申告をするなどの方法によりその所得を秘匿したうえ、

第一  昭和六三年分の実際総所得金額が一億一五四四万七二六八円(別紙1の損益計算書記載のとおり)であったのにかかわらず、平成元年三月一五日、東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が一一六三万〇四四三円で、これに対する所得税額が一六八万三七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額五八七五万〇三〇〇円と右申告税額との差額五七〇六万六六〇〇円(別紙2の脱税額計算書)を免れ

第二  平成元年分の実際総所得金額が二億一一八八万一八八一円(別紙3の損益計算書記載のとおり)であったのにかかわらず、平成二年三月九日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、同元年分の総所得金額が一〇八五万七七四三円で、これに対する所得税額が三六万二六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額九九四二万〇五〇〇円と右申告税額との差額九九〇五万七九〇〇円(別紙4の脱税額計算書のとおり)を免れ

第三  平成二年分の実際総所得金額が二億六八三二万四九一九円(別紙5の損益計算書記載のとおり)であったのにかかわらず、平成三年三月一一日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、同二年分の総所得金額が一一一〇万五〇三九円で、これに対する所得税額が二四万二五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法廷納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億二七四一万八〇〇〇円と右申告税額との差額一億二七一七万五五〇〇円(別紙6の脱税額計算書のとおり)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(一二通)

一  福田壽(八通)、栗原陽子、栗原はつ、島村和男、越智亨、小沢寿昭、村上耕一、小渕益生、飯森誠之、溝上伊都子(二通)、栗原栄、栗原義雄の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の売上調査書

一  大蔵事務官作成の仕入調査書

一  大蔵事務官作成の賞与調査書

一  大蔵事務官作成の給料調査書

一  大蔵事務官作成の福利厚生費調査書

一  大蔵事務官作成の退職金調査書

一  大蔵事務官作成の租税公課調査書

一  大蔵事務官作成の水道光熱費調査書

一  大蔵事務官作成の賃借料調査書

一  大蔵事務官作成の販売促進調査書

一  大蔵事務官作成の広告宣伝費調査書

一  大蔵事務官作成の旅費交通費調査書

一  大蔵事務官作成の備品消耗品調査書

一  大蔵事務官作成の支払利息調査書

一  大蔵事務官作成の本部管理費調査費

一  大蔵事務官作成の雑費調査書

一  大蔵事務官作成の修繕費調査書

一  大蔵事務官作成の現金過不足調査書

一  大蔵事務官作成の減価償却費調査書

一  大蔵事務官作成の繰延資産償却費調査書

一  大蔵事務官作成の固定資産除却損調査書

一  大蔵事務官作成のぱる・シェリール調査書

一  検察事務官作成の報告書(二通。検甲第七、三三号証)

一  豊島税務署長作成の領置てん末書

判示第一の事実につき

一  検察事務官作成の報告書(四通。検甲第一一、二一、三一、三二号証)

一  押収してある所得税確定申告書(昭和六三年分)一袋(平成五年押第五一六号の1)

判示第二、第三の各事実につき

一  大蔵事務官作成の業務委託料調査書

一  検察事務官作成の報告書(検甲第三〇号証)

判示第二の事実につき

一  検察事務官作成の報告書(検甲第五号証)

一  押収してある所得税確定申告書(平成元年分)一袋(前同押号の2)

判示第三の事実につき

一  検察事務官作成の報告書(検甲第二号証)

一  押収してある所得税確定申告書(平成二年分)一袋(前同押号の3)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は所得税法二三八条一項にそれぞれ該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ各罪につき情状により所得税法二三八条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金七五〇〇万円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件犯行は、三年にわたって虚偽の申告をして脱税をしたものであるが、その総計をみると総所得合計五億九五〇〇万円余のうち、三三五〇万円余のみを申告し、合計二億八八〇〇万円余を脱税したもので、脱税額自体において高額なうえ、通算したほ脱率も九九・一パーセントと高率である。ほ脱の手段は、被告人が前科の関係から麻雀店経営のための風俗営業許可が受けられないため従業員らの名義で風俗営業許可を受けていたのを利用して各店舗での売上を各営業許可名義人の所得として申告させたほか、収入の三、四〇パーセントを占める午後一一時から翌日午前一一時までの売上を除外して、借名及び仮名の預金口座に秘匿していたものであって、講じた手口は巧妙である。脱税の動機は、事業の拡大及び遊興費に充てる目的をもってしたもので、酌量の余地がない。以上によれば、犯情は悪質で、受けるべき非難は大きいというべきである。

しかしながら、被告人は、当公判廷において反省の情を披瀝し、二度と法規範に反することは行わない旨誓約していること、免れた本税のほか加算税、地方税はすべて完納していること、平成四年一月からは会社組織に改めるとともに税理士の指導の下に経理体制を整えて再犯の虞れを払拭したこと、昭和五七年五月覚せい剤の使用と競馬の呑み行為により懲役一年八月執行猶予三年の判決を受けて以来本件までなんらの違法行為も犯していないこと、一〇〇〇万円の贖罪寄付をしていることなど酌むべき事情もある。

右の各情状のほか、その他諸般の事由を勘案し、その刑の量定をし、懲役刑について刑の執行を猶予した次第である。

よって主文のとおり判決する。

(求刑・懲役二年及び罰金八五〇〇万円)

(裁判官 伊藤正髙)

別紙1

損益計算書

〈省略〉

別紙2

脱税額計算書

〈省略〉

別紙3

損益計算書

〈省略〉

別紙4

脱税額計算書

〈省略〉

別紙5

損益計算書

〈省略〉

別紙6

脱税額計算書

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例